2026年6月の糖尿病ニュース
糖尿病研究一つの焦点;細胞、組織、器官内・間連携
今年の日本糖尿病学会年次学術集会(JDS)で1990年台終わりごろまでは経験の医学、以降平均値の医学となり、2010年台後半からは精密な医学の時代であると聞きました。意外なことですが、大規模臨床試験1993年DCCT、1998年UKPDSなどの発表によりはじめて血糖値改善が合併症の予防につながることが証明されEBM(証拠に基づく医療)という用語が巷であふれていたのを思い出します。その後次々に糖尿病治療薬が登場、2015年オバマ大統領の教書演説もあり精密または個別医療の時代になったという訳です。
今年の米国糖尿病学会年次学術集会(ADA)Kelly West賞(糖尿病疫学分野における卓越した業績)講演では精密医療の例として2型糖尿病が重度インスリン欠乏型(SIDD)、重度インスリン抵抗性糖尿病(SIRD)、軽度肥満関連糖尿病(MOD)、軽度加齢糖尿病(MARD)に分類されること、糖尿病患者の心理的多様性や行動表現型(現在志向、将来志向、リスク回避型、リスク許容型、およびそれらの特性の様々な組み合わせなど)が治療反応や遵守に大きな影響を与える可能性があることが述べられました。講演中紹介されたインドのデータ(Jagannathan R, Diabetes Care 2026)ではSIDD型の予後が不良でした。なお日本糖尿病学会ホームページ等に公開されている「福島医大糖尿病未来予測ナビ」では1型も含めた糖尿病が5つに分類され、SIRDで腎臓病の発症や増悪リスクが高いと説明されています。上記インドの論文では境界型糖尿病にも新たな(データドリブンによる)分類が試みられていました。
インスリン分泌低下について気になり最近の総説(1) を読むと「臓器間クロストーク」ということが書かれていました。以下抜粋です。
「脂肪組織、骨格筋、肝臓、腸、外分泌腺膵は、代謝物、タンパク質、miRNA(遺伝子発現を沈黙させる短く非コードRNA)などの組織特異的メディエーターを通じて間接的にβ細胞の機能に影響を与えている。そのうち外分泌腺膵についていえば2型糖尿病では膵エラスターゼ(PE)をコードするCELA3Bが膵腺房細胞で発現上昇し膵島微小環境内に活性型PEが存在すること、生体外ヒトβ細胞株において病態生理的レベルのPEがアポトーシスを増加させβ細胞の増殖とインスリン分泌能を減少させることが報告されている。」
1型糖尿病における精密医療可能性を開くものとして性差研究があり、後述のRG Mirmira先生がその基礎理解のためSexual Dimorphism in the Setting of Type1 Diabetes講演中提示されたスライドです。わかりやすいのでお借りしました。
図には外分泌腺膵も描かれています。
講演中紹介された総説(2)を(難しい内容なので)AIにまとめてもらいました。なおこの総説は今ADAで大変重要と知ったnPOD (糖尿病を伴う膵臓臓器提供者ネットワーク)またはHPAP(ヒト膵臓分析プログラム)の協力は得ているものの必ずしも公式見解ではなく著者の責任で書いたものと謝辞に書いてあります。
1型糖尿病は免疫系・β細胞・外分泌腺膵が互いに影響し合う“病態の交響曲(symphony)”であり、「自己免疫だけが原因」という伝統的モデルでは説明できない多層的な疾患である。画像診断でもステージ1から3にかけて膵全体の縮小が明らかになっており膵外分泌能の低下も見られる。
伝統的モデルではCD8+ T細胞によるβ細胞破壊、HLA遺伝子、自己抗体(GAD, IA-2, ZnT8)が中心だったが、しかし近年のヒト膵臓研究により自己免疫だけでは説明できない病態の多様性が明らかに。
免疫細胞構成は年齢で異なり、疾患の背後にある分子病態による病型分類の可能性が示唆される。現在2つのモデルがあり鶏が先か卵が先か問題としてどちらも正しい可能性がある。
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● 自己免疫が先行するモデル
- HLA遺伝子
- 中枢・末梢免疫寛容の破綻
- ウイルス(特にエンテロウイルス)
- 腸内細菌叢の変化
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● β細胞・膵臓の異常が先行するモデル
- β細胞ストレス;ERストレス、酸化ストレス、プロインスリン加工障害、オートファジー障害、β細胞老化、免疫を刺激する新規抗原生成
- 外分泌膵の萎縮・炎症
- ECM異常
- 神経異常
- これらが免疫系を刺激し、自己免疫を誘導する可能性
文献(2)の共著者RG Mirmira先生による講演はDiabetes Year in Review: Major Advances and Discoveries(糖尿病1年間の出来事:進歩と発見) セッションでも聞きました。難しい内容を分かりやすくお話されました。その時のスライドをオンデマンドで拝借しました。ADAでは臨床分野の話題も豊富でした。次の機会にまとめてみたいと思います
参考文献
- Yau Bら: 2型糖尿病におけるβ細胞の役割:過去5年間の新しい知見. Diabetologia 68: 2092-2103, October 2025
- Atkinson MA, Mirmira RG: 1型糖尿病の病態“交響楽”: 免疫系、β細胞、外分泌膵臓の障害. Cell Metabolism 35: 1500–1518, September 5 2023
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