今月の糖尿病ニュース

2023年3月の糖尿病ニュース

2型糖尿病診断時年齢と精神心理状態/フレイル予防

おおはしクリニック 2型糖尿病と診断される年齢が40才未満を早期発症成人2型糖尿病(early-onset adult type 2 diabetes 以下EO)と定義すると、この数十年急増しており世界的に成人2型糖尿病の15~20%を占めると言われています(1)。EOは生命予後、細小血管障害、大血管障害リスクが相対的に高いのみならず精神疾患による入院も多いことが近年報告されています(1)。またうつ状態と糖尿病特有の苦痛(糖尿病日常生活に伴う負の感情)は血糖コントロールの悪化に繋がり、セルフコンパッション(自分への慈しみ、他者を思いやるように自分自身を大切に思うこと)は精神的健康、血糖、セルフケアの向上をもたらすことがわかっています(1)。
以上を背景にEOの精神的負担を減らし予後改善の具体策を練る為には精神心理状態の詳細なわかりやすい把握が必要と考え調査が行われました(1)。参加時年齢と精神心理状態を調べた研究と違って発症時年齢を調べたことが特徴で、EOでは疾病表現型、生活経験が例えば同じ40才でも40才に発症した2型糖尿病の人とは違うと考えられるからです。
朝型夜型と2型糖尿病血糖コントロールを調べる進行中の英国内横断研究(CODEC study)データベースから最初の参加者1105名中発症年齢がわかる706名の重複剥奪指標IMD(Index of multiple deprivation)、PHQ-9(うつ状態の指標)、DDS17(Diabetes Distress Scale)、Self-Compassion Scaleを調べました。EO、40~59才発症(MO)、60才以降発症(LO)の3群間の比較を糖尿病罹病年数、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)有無、IMD等による調整後多変量回帰分析を行いました。なおCODECでは睡眠薬、鎮静剤、カナビス内服者は除外されています。結果です。EO64名の平均年齢は52.5才、糖尿病罹病期間18.0年、糖尿病家族歴68.8%、インスリン治療53.1%、PHQ-9スコア(平均3.0)はEO6.0, MO4.0, LO2.0、DDS17(平均1.5)は同2.0, 1.6, 1.4、Self-Compassion Scale(平均3.3)は同3.1, 3.3, 3.4、IMD1+2は同29.6%, 25.8%, 14.6%でした。中等度以上のうつ症状は全体で19.9%(発症年齢が1年早いと4%増加)、糖尿病特有の苦痛(Distress)は同32.6%(発症年齢が1年早いと6%増加、ただし糖尿病罹病期間の影響を受ける)でした。
以上よりEOはMO、LOに比し精神心理状態に、より大きな負担を抱えていることがわかました。その要因はスティグマ、職場・家庭状況の変化しやすいことなどが推察されています。
白人が87.7%を占め、CODECという研究に参加する余裕のある人が対象で、かつデータ収集が難しいため症例数が少ないという限界もありますが、年齢に応じた心理社会的アプローチとともに臨床現場でもより注視していくことを訴えています。

おおはしクリニック 一方高齢になるとフレイルの問題が重要です。以下当クリニック非常勤管理栄養士植田さんからの報告です。
第26回日本病態栄養学会年次学術集会に参加しました。
病態栄養学会は1998年創設、医師・看護師・管理栄養士対象に病態栄養の専門的な知識をもつ人材育成をおこなっています。しかし清野裕理事長からは「未来に向かって」と題して、病態栄養専門各職種は現場で多層的な連携が求められる、なぜなら日本の生産人口は減少していくばかりで、65歳以上人口を何人で支えるか?1人に対し、1990年5.1人→2025年1.8人→2060年1.2人で支え、1:1で支える時代がきつつ、絶対的なマンパワー不足が到来するからと伺いました。つまり一職種で他の職種の役割をカバーすることが求められるということです。また栄養療法は今後ますます必要な分野で
・栄養、食事はすべての治療の根幹である
・周術期や薬物化学療法の効果も栄養に左右される
・近年の大規模臨床研究の結果、生活習慣病に著効する薬剤も、食事療法が適切であることが重要
・栄養療法は非常に費用対効果に優れ、医療費の増大するなか推進すべき治療法
といわれ、栄養療法はすべての病態のいずれの時期にも必要で、合併症抑制・QOL(生活の質)向上・治療効果満足度向上・医療費自己負担抑制など好循環が生じるということで、栄養療法は自信をもって進めるよう言われ、今後も幅広く、かつ深く勉強を続けて行くモチベーションとなりました。
がん以外の疾患は、身体機能がゆっくり低下し、後期高齢者になるといつの間にか身体が弱っていきます。これをフレイルと呼び進行具合は歩行速度や握力計でも知ることができます。フレイルは可逆性なので適切に食事・運動療法を行えばADL(日常生活動作)・QOLの向上、健康寿命の延長、最期の身体機能障害の期間短縮ができるのではないかといわれています。中でも筋肉量を保つことは重要でたんぱく質摂取が大切です。65~75歳の間に必要応じ、生活習慣病対策からフレイル対策のギアチェンジが必要とされています。糖尿病の患者さんから「野菜から食べてお腹がいっぱいになり他の物が食べられない」「塩分制限しすぎて食欲落ちさらに痩せる」などの声があります。個々によってギアチェンジする時期は違いますが、患者さんとコミュニケーションをとって食事のとり方を切り替える時期を一緒に考えさせていただきたいです。
また慢性腎臓病合併たんぱく質制限をしている人ではフレイル予防とどちらを優先すべきか悩む症例に出会います。サルコペニアを合併したCKDにおいてはたんぱく質制限が緩和される機運もあります。最新の情報収集につとめ今後も、病態時期に応じた食事を一緒に考えご提案させて頂きたいと思います。

おおはしクリニック

参考文献
  1. Barker MMら:2型糖尿病診断時年齢とうつ症状、糖尿病特有の苦痛、とセルフコンパッション. Diabetes Care 46: 579-586, March, 2023
2023年3月


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