今月の糖尿病ニュース

2020年11月の糖尿病ニュース

スマートフォンアプリに基づいた生活様式コーチングプログラム

スマートフォン(スマホ)アプリを使った糖尿病診療関連プログラムについて、ネガティブな意見が出るとすれば「高齢者には使いこなせないのでは?」「モチベーションの高い人以外手間がネックでは?」「長期間続けると飽きるのでは?」等が考えられますが、妊娠糖尿病はその点理想的な適応対象かもしれません。また医療スタッフ側の負担も自動応答機能が備わったアプリなら軽減されます。

おおはしクリニック今月妊娠糖尿病合併した340名を対象にスマホアプリHabits-GDMを使った試験結果がシンガポールから報告されました(1)。平均年齢32才、BMI25.6、通常のプログラムにスマホアプリで食事、運動、体重、血糖に関する追加支援を行い過剰体重増加(EGWG)者の割合を主要評価項目、体重増加量、血糖コントロール、母子・出産転帰を副評価項目としました。因みにEGWGは妊娠前BMI別に設定された体重増加量を超過することで、妊娠高血圧症候群のほか妊娠糖尿病合併者で巨大児やインスリン治療の確率を増やすという報告(2)があります(日本では体重増加不良も問題のようですが)。
結果、血糖コントロール、種々新生児合併症総数(事前に指定していないエンドポイントですが38.1vs対照53.7%)は改善したが、EGWGは減少しませんでした(20.8%vs対照14.6%)。 マンパワーをかけない分効果は小さいかもしれませんが、スマホアプリの効果を科学的に示した点で注目されます。

おおはしクリニック

今回はアプリの実際まで調べることができませんでしたが、時代の流れそしてクリニックにもアプリ愛用者がおられる以上私自身アプリは苦手と逃げてばかりもいられません。
調べてみると今年のJDS(第63回日本糖尿病学会年次学術集会)では「あすけん」「カロミル」というアプリ関連演題が発表されていました。学会ホームページには七福神アプリも紹介されていました。
また日経クロステック>デジタルヘルスWEBサイトにはデジタル治療DTxを手掛けるSave Medicalと大日本住友製薬が糖尿病管理指導用アプリの共同開発、治験開始をしていて医薬品医療機構総合機構PMDA承認申請予定であること、米国Welldoc社のアプリ「BlueStar」についてアステラス製薬が日本で商業化を目指していることが報じられていました。

2014年11月施行の医薬品医療機器等法によると糖尿病領域では、製造販売承認申請要する医療機器に該当するプログラム;簡易血糖測定器等の医療機器から得られたデータを加工・処理して糖尿病の重症度などの新たな指標の提示を行うプログラムと
該当しないプログラム;日常的な健康管理のため、個人の健康状態を示す計測値(体重、血圧、心拍数、血糖値など)を表示、転送、保管するプログラム、歩数など検知し健康増進や体力向上を目的として生活改善メニューの提示や実施状況に応じたアドバイスを行うプログラム、上記に対して転送、フォーマット変換、ファイルの結合等行うプログラム、
に分類され2018年12月28日の改正では、該当しないプログラムに特定の集団の当該因子のデータと比較して糖尿病発症確率を提示するプログラムが追加されました(以上DMネットより)。

おおはしクリニック最後にEASDとADA(ヨーロッパ、アメリカ糖尿病学会)糖尿病テクノロジー作業部会から出たコンセンサスレポート(3)にも目を通しました。要点です。
糖尿病デジタルアプリ(Digital App)テクノロジー(以下App)について;
Appのメリット、リスク、長期予後を確立する必要がある。この分野はまだ幼少期にある。
バージョンアップの速度が速い、予算が立たない、プラセボ効果が混じりやすいなど質の高い論文が生まれにくい宿命がある。2018年時点で数編しかないという意見もある。
2010年代に入り世界各地で管轄機関が設立されているが、例えば米国FDAが医薬品と医療機器を扱うのに対しヨーロッパは統一機関設立遅れ(2017年5月5日新医療機器規則MDR発効)などから認可が甘い傾向にあったが、最近は差が縮まりつつある。
最近のFDAはmobile health apps(いわゆるアプリ)とdigital therapeutics(digiceuticals)を区別し、前者は個人データ管理アプリなどリスクの少ないもの、後者は前述のBlueStarなどで処方箋が必要、ヘルスケアチームサポート付きなど特徴がある(簡易版はいずれもなし)。しかし暫定的なもので今後進化発展を目指す。国際的にはIMDRFが2011年に設立されている。医療関係者はAppについてアップデートされねばならないが多忙で困難なため専門職養成が必要である。ガイドラインに沿わない意見、非科学的なデータがあると診療の妨げになる。
最後にリコメンデーションが監督機関、製作者、学会、研究基金、研究者、医療従事者、使用者別に記載され今後の指針が示されています。学会はガイドラインを出すこと、医療関係者を教育すること、信頼のおけるアプリを示すこと、研究者は個々のアプリ使用者データを発表すべきということ、医療従事者はアプリの長所、弱点など知識習得に努め使用者に情報提供できるようになること、使用者は医療従事者と相談すること、感想を述べることなどが記載されています。

参考文献
  1. Yew TWら:妊娠糖尿病合併者における体重増加、血糖コントロール、母子アウトカムに対するスマートフォンアプリに基づいた生活様式コーチングプログラムの効果を評価するためのランダム化対照試験:The SMART-GDM Study. Diabetes Care: published online, November 12, 2020
  2. Barnes RAら:妊娠糖尿病管理前、期間中の過剰体重増加:どんな影響があるか?Diabetes Care 43: 74-81, January 2020
  3. Fleming GAら:糖尿病デジタルアプリテクノロジー:恩恵、課題、および推奨. EASDとADA(ヨーロッパ、アメリカ糖尿病学会)糖尿病テクノロジー作業部会によるコンセンサスレポート. Diabetes Care 43: 250-260, January 2020
2020年11月

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